Interview

前村 佳孝

Yoshitaka Maemura

株式会社高本損害鑑定事務所
東北オフィス

前村佳孝

東日本大震災での地震調査を経験
釜石で出会った少女…

東日本大震災が起きた当時(2011年3月11日)、ちょうど宮崎支所で新燃岳の噴火被害による地震の調査をしていました。移動中に、車内のラジオで震災を知り、現地までの交通手段の目処が立った10日後くらいに東北へ向かいました。現場が混乱していたせいか、調査要請が各方面からあり、派遣先が山形県内から宮城県、岩手県内へところころ変わる中、最終的に岩手県北上の保険会社の地震対策室に入りました。そこを拠点に、初めは岩手県南部の一関市などで地震調査に回ったのですが、被害は想像していた以上にひどいものでした。建物が傾いて沈み込んでいるので、玄関のドアが開かず、横の縁側から調査に入ったり…。傾きが酷くとても住めないと思われる家がたくさん見受けられましたね。ある地区では、全国各地から応援に駆けつけた保険会社の社員に早く調査方法を覚えてもらうため、実地研修を兼ねたチームを組んで、調査に当たったことも。

4月に入り、盛岡の対策室に移りました。そこでは、主に沿岸部の釜石市と大槌町が担当に。今でも記憶に残っているのは、釜石の少し高台にあった老夫婦の家での調査です。鑑定したあとに、お二人から震災当時の話をうかがいました。高台にあったおかげで、津波はまぬがれたものの、娘さんご夫婦を亡くされ、お孫さんだけが生き残ったとのこと。その場に居合わせ、話を聞いていた女の子(お孫さん)は、涙ぐみながら部屋からいなくなって…。仕事上、感情を絡めずにやらないといけないのはわかっていましたが、このときばかりは辛かったです。

鑑定人は被災現場に赴いて調査
公正な立場で損害額を算出

私たち鑑定人の仕事は、損害保険会社から要請されて損害保険に関わる建物や動産といった財物の損害額の算定をします。このほか、保険価額の評価や事故原因の調査などを受け持っています。例えば、火事による損害や地震で家が倒壊してしまったときの被害の状況を現地で確認し、被害額を出します。だからこそ、中立な立場で公正な損害の額を算出しなければならないという重責を日々感じています。

「鑑定人が来る」と聞くと、保険契約者の方はあやしげな印象を持たれたり、構えられたりしまうことがあります。それに、「鑑定」というと、「○○○○鑑定団」という某テレビ番組で出てくる古美術品などを鑑定するイメージがあるようですが、違います。鑑定団の方は、本物か偽物かをみる真贋(しんがん)鑑定で、英語でいうと「コノサー(connoisseur)」(目利き・鑑定家)。鑑定人は、建物の補填(ほてん)を目的に損害額を算出して、評価や調査をしますから、「ロス・アジャスター(loss adjuster)」(保険損害査定人)という仕事なのです。

この仕事は、出張が多く、観光ではまず行かないようなところも飛び回ります。それが嫌という人もいますが、プラス思考でじっとしていられない自分には合っています。

火山灰が降る子ども時代…
その後出会った鑑定人という仕事

宮崎県で生まれ、3歳から中学2年生まで父親の出身地でもある鹿児島県で育ちました。幼い頃から家でじっとしていられない性格だったので、火山灰が降る中、自転車に乗っていつも走り回っていましたね。鹿児島ですから活火山が身近にあり、自分にとって灰が降っているのは日常的なことでした。だから灰の扱いには慣れていましたよ。鑑定人は火山による事故や被害などもみますから、子どものころの経験が今の仕事に結びついているような縁を感じます。

この仕事に就く前は、防水工事の会社で外壁や防水の劣化診断をしていました。漏水が起きた際に主に原因調査やその修繕工事を担当していたこともあり、損害保険に絡んで保険会社や鑑定人と接する機会が増え、そこで初めて鑑定人という仕事を知りました。
鑑定人に魅力を感じ、2004年にこの業界に入りました。

常に広い知識と経験を積んで!
+αの情報をお伝えする気持ちを忘れない

地震保険の場合は現地で調査のあとに調査結果(もしくは査定結果)までお伝えできますから、保険契約者の方が泣いて喜ばれることもあります。東北の震災当時は地震保険の加入率が低く、担当していた地区でも入られていない方が多かったです。被災地を回ったときは、被災者の方々から「地震保険について教えてほしい」とよく呼び止められました。被災者の方を集めて講座を開いたこともあります。

私たち鑑定人は困っている人たちのところに足を運ぶわけですから、そこで損害額の算定だけではなく、アドバイスや+αの情報をお伝えできたらといつも心がけています。

これから鑑定人を目指す皆さんにお伝えしたいのは、とにかく鑑定人という仕事は幅が広く飛行機や船舶、車、人以外はほぼすべてを扱う職業だということ。何から何までみなくてはならいので幅広い知識が必要です。勉強して覚えたことでもその後新しい技術や工法、機械がどんどん出てきますから、自分の持っている知識がすぐに古くなります。ですから、いろいろな情報にアンテナを張って常に勉強をしなければなりません。そのためにも、幅広く興味を持ってたくさんの経験を積んでいきましょう。

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